「で、いつまで俺達はここに足止め食らってりゃいいんだ?」 「バル兄・・・そんなイライラしないでよ。イライラは伝染するって言うでしょ。」 「・・・だってよー」 潮騒も穏やかな午後。 ここはアクラル大陸の海の玄関、湾岸都市メゾネアだ。 ミラノ騎士団一行は災厄の予言を阻止する為、メゾネアで船の出航を待っていた。 いくら予言阻止の為とはいえ、たかだか10人程の集団の為に大きな船を出してはくれない。 一行は日ごと増していくじりじりした気分に憂鬱になりながら、今日も各々で時間を潰していた。 「次に船が出るのはいつなんだ?」 「三日以内には出るって言ってたよ。もうちょっとだから我慢してよね、バル兄。」 バルスは机に突っ伏してはあっと溜息をついた。 ディルスもそんな兄に思わず溜息をつく。 ・・・・・これではどちらが兄か分からない。 所で彼らの兄のセリウスは、今回の予言阻止の遠征には参加していなかった。 前回の遠征で傷を負い、鎧や兜まで駄目にされてしまったからだ。 鎧はヴァレイで修復可能だったが、兜は無理だった。 兜は今バルスが預かっている。 これから向かうアクラリンドにあるヴィムには、魔騎士の工房がある。 そこでならば、修復不可能なまでに裂けたこの兜もあるいは・・という事で、セリウスがバルスに預けたのだ。 父から譲り受けた大切な兜だ。 例え使えなくなっても、そのままにしておくのは忍びなかった。 この街の潮風で錆つかないように、兜は布に丁寧に包んで宿屋の部屋に置いてある。 バルスやディルスが身に着けている鎧も同様で、錆がつかないように毎日手入れをしなければいけない。 正直な話、それが面倒で早くアクラリンドに渡りたいという気持ちもある。 「・・・バル兄、ここでぼーっとしてても船が出るわけじゃないんだしさー 外行って体慣らしとこうよ?」 「・・・そだな。港の端なら広いし人もこねーだろ。」 「そこなら確か、レルミさん達も行ってる筈だよ」 「・・じゃ、行くか。」 「団長とスルギさんに声かけてからね」 「おう。」 とりあえずは気分転換。 部屋で地図を睨んでいるブラッドとスルギに声をかけて、二人は外へ出た。 「なー、見たかディルス?二人のあの眉間の皺!!」 「・・明日になっても船が出なかったら、今度は団長達も誘って外に行かないとね。」 「そーだなぁ。」 空は快晴だった。 船出まで、この快晴が続くといい。 二人は空を見上げて、港へと足を向けた。 ----------- 1058年、湾岸都市メゾネアにて。 荒野に歌えば、の続き@プロローグ。 「ワルディ、毛布毛布」 「・・・ああ、すまない」 「今晩はひやっこいねー。風邪ひかんとね。」 草っぱらに霜が降りてきらきらする夜。 オイラ達はいつものように草原のど真ん中で野宿してる。 風に長い間洗われて、褪せた色になった岩に背中を凭せ掛けて、毛布にくるまる。 荷物になるけど、この季節の遠征に不精して持っていかなかったら酷い目にあうんよ。 ほんとに、とんでもない経験をしたもんだね。 精霊郷にいった騎士団、なんて、後にも先にもこの騎士団だけでしょや。 こんな世界の革変に立ち会えたのは、不幸なのか幸せなのかどっちかね? 「リリアとフィラはもう寝たんかい?」 「ああ。」 「そか、今日はめいっぱい歩いたもんねぇ。 また出よったんよ、アグレス。今度はグラツィア。」 「・・アグレス・・倒しても倒しても、という感じだな。 空気を切っているようで不愉快だ。」 「んー、同感同感。」 ワルディは魔騎士。 オイラは冒険者。 こないだオイラとの間に精霊が降りてきたんでよ、そら驚いたったらないよ。 キレーだったよぉ、キラキラしとった。 ワルディのあんなけ驚いた顔、初めて見よったよ。 「コルン、精霊はまた力を貸してくれるだろうか?」 「んー・・・わかんないね。」 「・・・」 「ま、貸していただけると嬉しいんだけどねぇ こないだなんかよ、リリアもっちょいで死ぬトコだったじゃんかよ。」 「あの時は流石にキモを冷やした。」 「まだ守ってやんなきゃいかんねーあの子らは。」 ----------- 最終決戦の4・5年前 。 コルン・ヴィトルとワルディア・ウェリンデール。 精霊降りてます。 「もっと獲物をよく見ろ。」 「はい。」 「お前は・・せっかちだから、心持ち遅く。」 「はい。」 「確実に。」 セリウス=ヨムライネン。 俺の師匠は頭がいい。 技や力は人並み程度だけど、恐ろしく頭がまわる。 アーチャーと魔騎士、技の違いでこの師弟の組み合わせは珍しい。 師匠にも”本当にいいのか”と聞かれたけど 俺の師匠は、彼しかいないと思ったんだ。 「ウェル」 「はい。」 「今度はしくじるな。もし収穫なしだったら・・私は・・」 「・・・師匠」 「バ、バルスに殺される・・!!」 「・・わかってます。次は外しません。」 最近肉を食べてない。 バルスさんはよく食べる人だから・・・・ でもそりゃ、あの人だって大人だし、あからさまにそんな事言ったりしない。 ふざけた感じで”たまには肉食いてぇよなぁ” くらいだ。 でも。 師匠とその弟のディルスさんには、それが恐ろしい脅迫に聞こえるらしい。 『とにかく肉狩ってこねえと暴れる!』 と。 そんなわけで。 「ウェル!!」 「わかってます。」 師匠は・・腕が悪いわけじゃないけど・・どこか抜けているので、俺が変わりに狩りをしている。 森の民のプライドにかけて、兎やら鳥やらの一匹くらいは持って帰らないと。 「・・・・!!やった・・・!ウェル、ありがとうウェル!」 ・・師匠、性格が変わってます。 ----------- 某年某日。 ビビる師匠とその弟子。 「ねえ、ほんとに見たの!?」 「ホント!ホントに"狂犬"がいたんだよ!」 王都に傍に静かに広がる小さな森。 その"都の森"に、二つの影が風のように走っていた。 「いくら"都の森"って言ってもね!そんな狭いわけじゃないのよ!!」 「わかってるよ!でもホントにいたんだってば!」 身軽な彼女らは、まるでソーサランドに住むケナガリスのように木から木へと飛び移る。 時折幹に生えたこけに足を取られながらも、彼女らは確実に森の中を進んでいた。 「見つけたらお手柄だよ、ねーさん!!ブラッドは"狂犬"を捜してるんでしょ?」 「ブラッド団長、でしょ!!そりゃ、見つければお手柄でしょうけど・・」 「ほらほら、そうでしょ!」 ガサガサと木の葉を揺らして走る彼女達に、驚いた鳥や動物達は慌てて逃げていく。 喧騒が足跡のように続き、静かな森を騒がしくさせていた。 「あ!!姉さん止まって!!」 「え!?」 「あそこ、薪の跡があるよぉ。」 「・・・あら。ほんとだったのね。」 木から飛び降りて、その場所を調べ始める。 巧妙に隠した焚火の後。動物の死骸。 目を凝らさないと分からないが、白い粉も僅かに落ちていた。 「・・・・薬の粉かしら?」 「持って帰って調べようよ。"狂犬"の可能性、なきにしもあらず・・かな?」 「さて、わからないわね。・・でも普通の旅人なら、こんな隠れた場所で野営はしないわ。」 「んー、とりあえず報告しよう!!僕のお手柄だよ?」 「・・わかってるわよ。」 ガサッと音が響く。 そこに彼女達の姿はもう無い。 また来たときと同じように、足跡のように喧騒が続いていた。 彼女達は騎士団の"隼姉妹"と言われているとか・・・。 ----------- 騎士団の隼姉妹。 ヴォイロ家二代目の姉妹、チャロ・チュロコンビです。 妹は一人称が僕。 |