「ウェルメーネ、お疲れみたいね」 「・・まあな。いきなり肩の力が抜けて、どっと疲れが来たみたいだ。」 「あたいも。・・っても、あたいは全然遠征ついてかなかったんだけどね。 ほとんど本拠地待機。」 「君には、君にしかやれない事がある。それが戦闘でなかったという話だ。」 「ありがとう。・・そう言って貰えると気が楽になるわ。」 「・・・ああ、そういえば君の兄さんは子宝に恵まれたんだと言っていたな。」 「そうそう。マーリンも結婚しちゃって・・・一人身は私だけ! でも、姪っ子も甥っ子も皆いい子よ。とくにウィラン君は聞きわけが良くてね。」 「ほう・・・うちのウェルは、変な所ばかり私に似てしまってな・・。 君の姪や甥達と、上手く付き合えていたらいいんだが・・」 「親なんだから・・・ちゃんと見てあげなさいな。 これからは時間もあるんだもの。」 「・・そうだな。」 「ほんと、お疲れ様。ウェルメーネ。」 「リア・・君もだ。これからは思い思い、良い二度目の人生を送れるといいな。」 「・・ええ。」 「リアおばさーん!!ティアル姉ちゃんいないよー!」 「ウェルくんもいないみたいです・・」 「・・・じゃあ・・とりあえず、まずは息子をしかってみようか。」 「いない親の変わりに、叔母さんが一肌脱ぎましょうかね」 ----------- 1053年、ウィラン9歳・ティアル&ウェル8歳・ルーアン6歳。 聖騎士・ウェルメーネ=フィー、36歳 魔女・リア・ジョウゼン、31歳 「父上!」 「おかえりなさい、とうさま!」 「セリウス、ディルス・・元気だったか。」 父が騎士団を退団した。 木漏れ日も暖かい、春の日の事だ。 久々に父に会えて、まだ小さかった私はひどく嬉しかった事を覚えている。 父は強く、聡明だった。 「なんだ・・バルスはいないのか?」 「バルスは、母さんと一緒。」 「・・訓練、サボってるの!」 「・・相変わらずなのだな・・。セリウス、二人は何処だ?」 「多分、中庭に・・・」 「そうか。」 「父上、行くんですか?」 「また戻るよ。・・どれほど腕をあげたか、私に見せてくれ。」 「・・はいっ」 父は厳しく、そして優しかった。 私達兄弟は父に認められようと(時折バルスのサボり癖もあったが)日々鍛錬をしたものだ。 幼い頃から遠征で殆んど会えなかった父、そして母。 だから、退団後の両親と共に過ごした五年間はひどく暖かくて、心地よいと感じた。 結局、父は私が騎士団に入団するのを見届けずに死んでしまったが、 父と過ごした時間と、父から貰ったすべてを私は忘れる事はないと思う。 今日は小春日和の温かい日だ。 父が退団した日を思い出す。 「おーい、セリ兄ー!水汲んできたよー!」 「花も貰ってきたぞ兄者ー!」 「・・・・ああ。」 風が吹いて、木々のざわめきの下に朧な影が見えた。 まるで父が、私を見ているようだった。 ----------- 1047年当時・・セリウス・9歳、バルス・8歳、ディルス・5歳 魔騎士・カリオス=ヨムライネン32歳 巫女・エリラ=オンディガッタ、30歳 「レルミ?レルミ、何処へ行ったの?大婆様が呼んでるわよ。」 今日は珍しく雨があがった。 村の若い子達は皆外に遊びに行ったみたい。 なのに大婆様ったら何の用かしら。 またお説教ならウンザリだわ。 「あね様、私も外に行きたいの。」 「わかってるわよ、でも大婆様が呼んでるの。仕方ないじゃない・・」 「もう・・大婆様ったら。あね様、私もう決めたの!」 「私に言わないでよ・・・止めたって聞かないものね、あなた。」 この里を私は愛しているけど、この里は私には狭すぎる。 私はもっと大きな世界を見たかった。 ただ、退屈なだけだったのかもしれないけど。 里長の娘だった私はこの場所に留まり続けなければいけなかった。 それでもいいと思っていた時もあった。 あの日、騎士団がこの里に来るまでは。 15になったら里を出るつもりだった。 けれど許しが貰えずにもう3年。一人で逃げ出すには、私はまだ未熟だったわ。 でも、もうそろそろ限界ね。 私の意志は固いわ。 「レルミ、やめておきなさい。」 「無駄よ、父様。母様。大婆様。」 「母が許すと思うのですか。」 「思わないわ。」 「・・・・・意思は固いようだね、レルミ。」 大婆様は溜息をついて里の入り口を指した。 父と母が驚いて大婆様を見てる。 「いっておいで。けれど、戻ってきてはいけないよ。」 「ええ。」 「逃げてはいけない。最後まで貫き通してきなさい。」 「・・・」 「もし貫き通せたなら・・その時は迎えよう。」 雨上がりのキーラの里。 世界を覆う闇に気付いた少女が一人旅立った。 ----------- 1046年、レルミ=ソウジン・18歳。 「ルーアン君、帰って来たわよ」 「ほんと!?」 エルヴェの声に勢いよく扉をあけて、転がるように外へ飛び出す。 雨上がりの空は、目を覆うほど眩しかった。 「ねーちゃん!にーちゃん!」 ぬかるんだ地面に足を取られながら、走りよる。 一番先頭を歩いていたブラッドがそれに気付いて、嬉しそうに破顔した。 ウィランとティアルも嬉しそうに弟に駆け寄る。 「ただいま、ルーアン。遅くなってすまなかったな」 「団長、お帰りなさい!オイラ待ってたよ!」 ウィランに飛びつきながら、ルーアンは息を弾ませてそう言った。 そう、ルーアンは今年で15歳。 騎士団への入団を許されたのだ。 「ウェルも、お帰り!次からはオイラも行くから!」 「・・・・ああ」 「何だよ、嬉しくない?」 「お前、ちゃんとついて来れるか?」 「ば、馬鹿にすんなよっ!」 「ウェ、ウェル殿・・・」 ウィランから離れてウェルに詰め寄るルーアン。 ウェルの後ろにいた新参のサムライがおろおろと彼らを止めようとする。 新参のサムライの名はムルガ=ヌール。後にティアルの夫となるサムライだ。 「ムルガ、放っておけばいい。ウェルとルーアンはいつもこうなんだ」 「そ、そうでござるか・・・」 驚く新参のサムライを尻目に、二人の言い争いは激しくなっていく。 ―――・・これからこの二人が一緒に騎士団に入るのか・・ ブラッドは先の事を思って、少し身震いしたとか。 ----------- 1062年・・・ルーアン15歳・ウィラン18歳・ティアル&ウェル17歳・ムルガ16歳 |