「ルイ」 「・・・何」 リルメアは強く、彼女の名前を呼んだ。 隠し切れない声の震えは、彼女もまた動揺しているという事。 「何故、行かない。呼んでいるのに。」 「・・・怖いの」 「・・・・・・。」 「・・・・怖いのよ。」 ルイがぎゅっと目を瞑り、両手で顔を覆った。 離れたところで、途切れ途切れな声が聞こえる。 呼んでいる。 ルイを呼んでいる。 リルメアが、痺れを切らしたように叫んだ。 「ルイ!!!」 「・・・・わかってるわよぉ!!」 「わ、私だって、怖いんだっ!!」 「・・!でもっ・・!・・・だって、だって私・・!私のせいで・・!」 フランカの里を襲った魔物。 手強い魔物だった。 団長のブラッドでも、庇いきれなかった。 覚えている。 下がりなさい、と叫んだ高い声。 くぐもった悲鳴。 後ろで見ていた。 情けなく、腰を抜かしながら、ずっと後ろで見ていたのだ。 「ミルリットさん、まだ、18だった・・!これから結婚して、これからいっぱい楽しい事、いっぱい・・!なのに・・・!」 「私達が、もっと・・・」 もっと、強ければ。 「ルイ!!リルメア!!!早く来い!!!ミルリットが呼んでる!!」 ハッと、声のした方を見る。 マルヴァドルが呼んでいた。必死の形相だった。 「リルメア・・ルイ・・・」 ミルリットは、小さく、小さく二人の名を呼んだ。 彼女の体はもう、半分石になっている。 魔物の攻撃を受けたからだ。 苦しいだろうに。 痛いだろうに。 彼女は、少し顔を歪めては、また微笑もうとする。 「・・・ミルリット・・こんな時まで、我慢強くなくったって、いいんだぞ」 「・・・あら・・リルメアが、心配、してくれるなんて・・珍しいわね」 細い息に混じって聞こえる声は、とても小さい。 団長は黙って、ミルリットの手を握っていた。 少しでも、自分の命をわけてやれればいい。 そう、思っているのかもしれない。 「・・・ルイ、この間、頼んだでしょ?マントのほつれ、なおしてって・・・また、やぶけたみたい、だわさ。」 「・・・・・うん」 「・・・・また、頼める、かしら?」 「・・・・前より、綺麗になおします。ちゃんと綺麗に、なおしますからっ・・」 答えはなかった。 リルメアは深く兜をかぶり、ルイはじっと俯いた。 団長は空を仰ぎ、団員達は息を呑み、そして各々声を漏らした。 高い高い空には、雲ひとつない。 その日は快晴だった。 |