【兜/だからね/恋多き騎士団 】














「どうすんだよ。親父の兜駄目にしちまってさ。」

「・・・・・・。直すよ。」

「どうやって。」

「・・・アクラリンドの工房なら、直せる。
これは祖父から受け継いできた大事な兜だ。捨てるわけにも行かない・・。」

「・・・また鍛えなおすのか?いい加減ヤバイって。
これ以上鍛えて、兄者、抑えられるのかよ?」

「・・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・セリ兄、バル兄。とりあえず、直すだけ直そうよ。
これ以上使うか使わないかは、後でもいいじゃんか。」

「ディルス、そうやって曖昧にしちまうと、どーせまた兄者にうまい事言いくるめられるんだぞ!」

「でもさ・・・爺ちゃんと父さんの形見みたいなもんじゃんか。
そのまんまにしとくのは俺嫌だよ。」

「・・・誰もこのまんまにしとくなんて言ってないだろ?」

「・・・・バルス。」

「?何だよ兄者。」

「・・・とりあえず、これは持って行ってくれ。
次の災厄は近い。・・明後日・・いや、明日には出発するんだろう?」

「アクラリンドの・・次の災厄だろ。ああ、明日には出るぜ。
・・・・兄者は留守番な。」

「そうそう。セリ兄はちゃんと傷治しといてよね。」

「・・・・・ああ。」

「じゃあ、アクラリンドに言ったついでにヴィムに寄らせて貰えるように団長に頼むよ。
工房に預けてくる。」

「・・・新しい兜も、頼んでおいてくれ。
・・・・・・・その兜の修復は、かなり時間が掛かるだろう?」

「わかってるよ。」

「鎧の方はヴァレイの工房でなんとかなるよね。」

「・・・ああ。」




「兄者。」

「・・・・・・。」

「親父と爺さんが守ってくれたんだぞ。」

「・・・・。」

「二度とあんな無茶すんなよ。」

「・・・わかってる。」


「なら、いい。」
















だからね






「だからね、ウェル。」

「・・・・・・・・」


ウェルはいつだって私の話を聞いてくれない。
いつも一人で、いつも静かで、いつも無愛想。
昔からそう。

騎士団に入ってからもそれは変わらなくて、いつも一歩引いたところにいるのよね。

でもあたし知ってるのよ。
ほんとは優しいことも、からかったらすぐに赤くなることも、ちょっと怒りっぽいことも。

きっとあなたのお母さんとお父さんと、私しか知らないわ。








だからね、ウェル。














「この弦じゃ、この張り方は駄目よ」

「・・・何故だ。」

「あのね、ここの町の弦はあんまりいいものじゃないのよ。
ティゴルで使ってたものとは全然違うのよね。ほら、弾いてみて。」

「・・・・・・・。」



ウェルはしばらくぶすっとした顔してたんだけど・・・
しぶしぶって感じで弓の弦を弾いたその後の表情ったらないわよ。

すごく驚いた顔して、それからすごく仏頂面になったの。
気持ちはわからないでもないんだけどね。




「・・・ね?これじゃ多分、すぐ切れるわよ。」

「・・・ああ。」

「・・・・」

「・・・・」




ウェルは黙々と弦を張り替えてる。
私のほうなんて見向きもしない。




「ね、ウェル。」

「何だ。」

「・・・この騎士団にいるの、つまらない?」

「・・・なんで、そんな事聞く。」

「だって。誰だって聞きたくなるわよ。」



まだ入団して一年も経ってないけど、私はイルチャと仲良くなったし、団員は皆良い人だし。
何より団長がとても素敵だった。

母さんと父さんに聞かされてたとおりの人だった。


ウェルは、母のウェルメーネさんと父のイルヴァハさんを尊敬してた。
そしてウェルメーネさんとイルヴァハさんは団長を尊敬してた。

ウェルにとって、団長は尊敬の対象にならないのかしら?





「・・・つまらないわけじゃない」

「・・・でも」

「ただ」

「?」

「・・・馴染めないだけだ。」

「・・・・・・」



ウェルは弦を張り終えて、その弦をつま弾いてみせた。
ビィンと音がする。
それはとっても心地良い音。聞きなれた音。

馴染めない。
そう言ったウェルの横顔が、私は何だか悔しかった。







「私のとなりでも?」

「?」

「私のとなりでも駄目なの?私達ずっとコンビでしょ?」

「・・・そうだな。ティアルは強いから、安心して隣を任せられる。」

「・・・・・そうゆう事じゃなくって。」





ああ、もどかしいなあ。
ウェルはほんとに鈍い。これは私しか知らないことになりそう。

私も、もっとはっきり言っちゃえればいいのに。



何かが邪魔して言葉が出てこないの。





「・・・ティアル?」

「〜〜〜〜。なんでもないわよっ。ほら、いこ!皆待ってる。」

「・・・。わかった。」





私、ウェルのことならなんでも知ってるつもり。










だからね、ウェル。

早く気付いてね。





















恋多き騎士団





「なーなー、フェル。」

「何?」

「暇ー。」

「・・あたいにどうしろってのさ。」

「何か面白いもん持ってねえ?」

「持ってないわよ。鍛錬でもしたらどう?」

「んな事言ったって、兄者もディルスもいねーし。スルギさんもどっか行ってるし。」

「なんならあたいが相手してあげようか。」

「おいおい、馬鹿言うなよ。」

「何よ、やってみないとわかんないわさ。」

「だからって・・・ぎゃあっ!?」

「フン!!何さ、こんなことで情けないね。」

「アホか!いきなり炎使うなよ!」

「加減したわよ。」

「くっそー・・・この服買ったばっかなのに・・」

「焦げた?」

「焦げた。」

「あっそ。」

「ちょぉ待てよ!お前繕うとか何とか言わないのかよ!」

「・・・はぁ。わかったわよ。貸しなさい。」

「お、やってくれんのか。(もそもそ」

「・・・ああもう、面倒だわさ。」










「あらぁ、嬉しそうな顔してるわね、フェルちゃん。」

「ホントね・・・。気付いてないみたいだけど。」

「羨ましいわぁ・・。若いっていいわね。」

「ほんとほんと。」

「私もセリウス君のところ行ってこようかしら。」

「行って来なさいよ。もう、言っちゃえばいいのに。」

「駄目よっ。あの子はただの後輩!」

「ほんとにいいの?」

「しつこいわよ、テルミン。」

「はいはい。じゃあ私もマーリンのトコ行こうかな。」




ラブラブバカップル。