【精霊のいたずら】







999年から1000年へ。
その時を境にアクラル大陸には魔物が横行し始めた。

魔物達のバルクウェイ襲撃時に活躍したゴーレム山賊団。
彼らの働きも、3・4年程経つとバルクウェイ周辺の街にも認められはじめた。

そんな折だ。
山賊団に珍しい入団希望者がやってきた。

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「・・マルレーネ・・。あんた、マルレーネだろ!!」
「・・・・・・?」
「銀色と水の甲冑!金髪とブルーのバンダナ。
間違いない、マルレーネ・フィー!」
「な・・・・なんだ、貴様・・」
「あんた、山賊団に入ってんだろ?案内してくれ!!」

「・・・・・。」


聖騎士・マルレーネと、魔騎士ラグラディル。
彼らの出会いは突然だった。

「団長。」
「? ああ、マルレーネ?どうしたんだ?」
「入団希望者です。」

ゴーレム山賊団の本拠は、相変わらず雑多で、けれど暖かみのある場所だ。
マルレーネは入団してきた時、一目見てこの場所を気に入った。

彼女が入団したのは、一年程前のこと。
999年の魔物襲撃時に、彼女は育ての祖母を失ってしまったという。

マルレーネの後ろ、案内されてきた真っ黒な少年騎士はキョロキョロと落ち着きがない。

「・・・君。団長の前だ。少しは落ち着いたらどう?」
「ん?えーと・・・あの白い人が団長さん?わっかいんだなー!」
「おい!」

失礼にも程がある!!
マルレーネは、自分の目線より少し高い所にある少年騎士の顔を睨みつけた。


「はっはっは!ブラッド、中々元気のいいモンが来おったぞ。」
「そうみたいだな。」

ブラッド、と呼ばれた青年は、笑いながら椅子をたった。
隣には老成した、僧侶のような身なりをした男が立っている。
どちらかというと、この僧侶風の男のほうがリーダーに見えなくもない。

「マルレーネが案内して来てくれたのか。
ありがとう。」
「・・・・・いえ。」

「では、軽く質問じゃな。ブラッド、わしは外に出ておるぞ。」
「ああ、ついでにリリー達を呼んできてくれると嬉しいんだがな、ウォルラス。」
「わかった、わかった。まったく、人使いが荒い。
マルレーネ、手伝ってくれんか?」
「はい、お手伝いします。」


「さて・・・・名前は?」

「あ、俺、ラグラディル=ヨムライネンです!」

1004年某日、一人の少年魔騎士がゴーレム山賊団に入団した。
















”知ってるかい?マルレーネが連れて来たのは魔騎士だそうだよ!”

”それはすごい!魔騎士というと、あの魔騎士かい?”

”そうさ、あの魔騎士さ!これは凄い事になった!”


とても晴れた日の事だった。
とある"魔騎士"の少年が、ゴーレム山賊団に入団したのだ。


「よし、じゃあこれからお前はゴーレム山賊団の一員だ!よろしくな。」

「は、はいっ!」

魔騎士、というと・・一般的なイメージは、寡黙で、背が高く、馴れ合いを好まないイメージがある。
しかしラグラディルは、そんな魔騎士のイメージをひっくり返したような性格のようだ。
よく喋るし、軽いし、まあまだ伸びるだろうが背もそれ程高くない。

それでも、その身に纏った甲冑とハルバードはやはり本物で、ゴーレム山賊団の団員は首を捻りながらも、
少年を"魔騎士"と認める事にしたのだ。


ラグラディルの故郷は、彼に聞くところによるとフラムバラムの街らしい。
あの街に錬金の技術や暗黒魔術が存在しているなど、誰が思うだろうか。
ブラッドでさえ目を丸くしたほどだ。
彼の知る限り、今まで知り合った魔騎士はほとんどが海の向こう、アクラリンドのヴィムの生まれだった。


「灯台もと暗しってのは、こーゆうのを言うのかもね。
すごい人材じゃない、魔騎士なんて。わたし初めて見ちゃった。」

「リリー。」

「ラグラディル君、だっけ?
マリシアさんとアレウストさんがバルクウェイを案内するって言ってたわ。」

「そうか。好きになってくれるといいんだがな・・・。」

「大丈夫よ、バルクウェイほどいい街なんて、中々ないんだから!」

「・・ああ、そうだな。」


リリーは嬉しそうに頷いて、隣の部屋に入っていった。

最近は魔物の出現も少ないし、久々に平和が戻ってきたような気分になる。
たまには外に出て歩くのもいいかもしれない。
ブラッドはふらりと立ち上がると、どこに向かうでもなく、歩き出した。




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「私は、マリシア・アリステラ。これでも山賊団の団員よ?よろしくね。」

「私はアレウスト・クレオン。元、僧侶だ。よろしくな。」

「あ、俺、ラグラディル・ヨムライネンです!あ、15歳です!よろしく!」



マリシア、アレウスト、ラグラディルの三人は、バルクウェイの活気溢れる市場を歩いていた。

マリシアとアレウストの顔は、バルクウェイの人々にはもう殆んど知られている。
自然と、視線は二人の連れている少年にいくようだった。
親子とまではいかないが、兄弟のような光景に、市場の雰囲気は和やかになる。


「よぉ、マリシアちゃん、アレウスト!今日はどうしたんだい?」

「おじさん!うふふ、新しい団員が入ったのよ。」

「こ、こんちわっす!」

「ほー、元気のいい坊主じゃねえか。ほれ、頑張れよ!」


ぽんっ、と投げてよこされたのは、真っ赤な果物だ。
ラグラディルは驚いたようだったけれど、マリシアがにこにこと笑っているので、とりあえずと
貰っておくことにした。

「こうゆう事は、フラムバラムではないの?」

「んー・・珍しいかな。あそこは巡礼の立ち寄りで賑わうから、お堅いヤツばっかなんだ。」

「ほぉ。しかし、巡礼と聞くと一度は行ってみたいものだな。」

「フフ、そうね。」



それから一通り街をまわった後、休憩も兼ねてと、三人はアカガエルの池に向かう事となった。
バルクウェイには珍しく、ここはいつも空気が湿っている。
カエルの鳴く声が煩いくらいだ。


パシャン


ふと、水の跳ねる音が聞こえた気がして、ラグラディルは池に近寄る。



「あ・・・・」

「・・・・・。」


そこには、綺麗な金糸を風にたなびかせた少女。


「君か。・・・街の方は、案内して貰ったのか?」

「へ?あ、ああ。いい街だな、ここ。」

「そうだろう。・・私の育った街だ。」

「・・・・マルレーネ、は、ここで何してたんだ?」

「鍛錬だ。さっきは、魚を見ていた。」

「魚なんているのか。」

「ああ。」


マルレーネの近くに歩み寄り、池を覗き込む。
確かに、小さな魚が泳いでいた。

ふと、マルレーネの中で疑問だったことが甦る。


「・・・そういえば。君は、どうして私が山賊団の団員だと知っていたんだ。」

「ん?それはなぁ、フラムバラムに来てた巡礼の人が教えてくれたんだ。
山賊団の事と、マルレーネに助けられたこと。」

「え・・・?」

「優しそうなおばさんでさ、名前はえっと・・レーネルさん!」

「レーネル!? そ、そんな!その名前は、私の祖母の・・」


999年の魔物襲撃時に、命を落とした大切な祖母。
レーネル・フィー。

あと一歩のところで間に合わず、倒壊した家の下敷きになってしまった。
夢中で瓦礫をはらって助け出したけれど、その怪我は酷くて、結局三日後に亡くなってしまったのだ。

彼女の祖母、レーネルは、亡くなる寸前とても優しい顔で微笑んでくれた。
マルレーネは、今でもそれが忘れられない。



「・・・そかぁ・・。もしかしたら、その、マルレーネのばあちゃんが教えてくれたのかもな。
偶然にしちゃ、偶然すぎるしさ。精霊のいたずらとか?」

「・・おばあちゃんが・・・君に・・?」

「もしかしたら、俺にマルレーネのこと守れってことかも!」

「!!ちょ、調子にのるな!」

「あたっ!!な、なんだよぉ。俺、本気だぞ!」

「私は君に守られるほど弱くはないつもりだ。」

「・・・可愛くねーの。」

「何だと!!」





「・・・若いっていいわねぇ」

「何、君もまだまだ若いよ。」

「あら!ありがと、アレウスト。じゃ・・・行きましょうか。」

「そうだな。」



フラムバラムで出会った"レーネル"。

精霊のいたずらを借りた彼女の祖母だったのか。
それとも、偶然同じ名だったのか。

精霊のいたずらにしても、偶然にしても、ラグラディルはこの街、この山賊団に導いてくれた
"彼女"に、心から感謝している。

意地っ張りな白銀の少女に出会えたことにも。

とてもとても、感謝している。








今は昔、山賊団の頃のお話。
セリウス達兄弟の祖父にあたるラグラディルと
ウェルの祖母にあたるマルレーネのお話。

ここでわかると思うんですが、セリウス達とウェルは
親戚・・・なんですよね(笑
何故かヨムライネンとヴィトルはまったく血縁関係がありませんが。

10/16/Sun