「ちょ・・・本気なのっ!?二人とも!!」 「ああ、勿論だ。」 「別に死にに行くわけじゃない。リューイを助けに行くだけだ。」 「でもっ、でもっ!!あ・・あなた達までいなくなったら、私どうすればいいのよっ!!!」 ―――二人して帰って来たと思ったら、開口一番 『リューイを助けに行ってくる。』 ですもの。 驚くなっていうほうが無理よ。 だってそうでしょう? 皆、リューイは"死んでしまった"と思ってる。 ・・・私だって、心のどこかできっとそう思ってる。 でも、あの二人は違うみたい。 二人が行くって言った時、私半分心配で、半分嬉しかった。 リューイがまだ生きてるって信じてくれてる人が二人もいるなんて。 でもお願い。 生きて帰ってきてね。 そうじゃないと、許さないわ。 一生恨んでやるわ。 それが嫌なら早く帰ってきてね。 おいしいご飯作って、待ってるから。 「心配するなよ、サナ。旦那もちゃんと連れて帰ってくる。」 「そっちは任せた。無理はするな、サナ。」 「俺達がいないって分かったらパニックになるかもしれねえからな。 古参の奴ら以外には言うなよ。」 「ええ。大丈夫、こっちはなんとかするわ。 ちゃんと帰ってきてね・・・。」 -------------------- 「こりゃあ・・思ったより酷いな。」 「ああ。ここまでとはな。」 阿鼻叫喚・・・などという方が余程ましだ。 そこは灼熱の世界だった。 炎は、時々舐める様に地面を走るだけで、勢いなどはまったくない。 燃えるものが、もう無いのだ。 土が真っ黒な炭になって、辺りをを覆い尽くしている。 生き物など、影も残らず消滅したのだろう。 何も無い。 ただ、のっぺりとした地面だけが延々と続く空間。 あまりにも静かなその空間に、二人は息をのんだ。 ワイアットの紋章の加護がなければ、一分ともここにいる事は出来ないのだろう。 「おいゲド、離れるなよ。離れたら・・・焼け死ぬ。」 「ああ、分かっている。」 「ったく、ドコにいやがるんだアイツは!!」 焼けた土を踏みしめて歩く。 だが、周りが全て同じ景色なのでどこをどう進んでいるのか、どれだけの時間進んだのかがまったくわからない。 ただ、紋章の呼び合うままに歩き続けた。 「・・・・おい、ワイアット。」 「ああ。・・・無駄な苦労ばっかかけやがる・・!! オイ、起きろリューイッ!!」 ワイアットが力いっぱい叫ぶ。 "炎の英雄"リューイは、真っ黒に焼けた土に座りこんでいた。 伏せられた頭からは、その表情は窺えない。 この灼熱の地面に腰を下ろし、ただ蹲るリューイ。 英雄の姿とはかけ離れた卑小な存在。 「この馬鹿が・・!!サナが待ってんだ!!早くしやがれ阿呆!」 ―――――サナ・・・? ああ・・・俺こんな所で何やってんだ。 サナが待ってるってのに・・・。 声が聞こえる。 俺を呼ぶ声。 『お頭!!』 『リーダーッ!!!』 あいつらはもういない。 死んでしまった。 影も残らなかった。まるで水のように蒸発していった。 ・・ふざけんなよこん畜生めっ・・・!! 右手がメチャクチャ熱い。 血が沸騰してるんじゃねーかってくらい。 あの時、確かに状況は絶体絶命だった。 ハルモニアのくそ野郎共に囲まれて、一人ずつ仲間が死んでいって。 いつのまにか、限界を越えた右手を振り上げていた。 その瞬間、世界が真っ白に染まったのだ。 何も無い、自分以外何も無い世界。 それは紋章の見せる夢の世界によく似ていた。 何だか、どうでもよくなった。 何も無いなら、もう休んでもいいだろうと思った。 「煩い・・・ほっといてくれ。」 「何だと・・・」 「ほっとけつってんだよ!!」 「リューイ!!」 「ワイアット。」 激昂するワイアットを宥め、ゲドがリューイの側に膝をつく。 「顔を上げろ、リューイ。」 「嫌だ。」 「リューイ。」 「・・嫌だ。」 「リューイッッ!!」 ワイアットが、目を見開く。 静かな空間に響く鈍い音。 次いで聞こえてくるのは、荒い呼吸。 ゲドがおもいきりリューイを殴ったのだ。 普段、感情を表に出さないゲドが怒りに表情を染めている。 リューイは呆けたようにゲドを見つめ、じんじんと痛む左頬を手で覆った。 ワイアットですら呆気にとられたように二人を見つめている。 ゲドはすっくと立ち上がると、リューイを見下ろして一喝した。 「ここで死にたいのなら、勝手に死ぬんだな。 だが、サナはどうなる。・・・サナはお前の帰りをずっと待ち続けるぞ。」 「・・・サナ。」 「そうだ、リューイ。大体お前がここで死んでどうする!! グラスランドの奴らはどうなるんだ!?」 「・・・・。」 リューイは顔を上げた。 目の前には、戦友の姿。 「帰るぞ、リューイ。」 「さっさとしろよ。」 「・・・悪ぃな・・ゲド、ワイアット・・・。」 半日後、リューイを抱えたゲドとワイアットがほうほうの体で帰って来た。 仲間達が一斉に駆け寄り、三人を囲む。 糸が切れたように座り込むゲドとワイアット。 炎は未だ燻ぶり続けている。 この火が完全に消えるのは、6日後。 「おいリューイ。生きてるか。」 「・・・・あ、ああ・・・。」 「どうした。」 「・・・・腹、減った。」 「「・・・・・。」」 閉口する二人。 「じゃあ、今夜はたくさん作らないとね。」 「・・・サナ・・・!!」 「おかえりなさい、三人とも。」 「約束は守ったからな。いい酒用意してくれよ?」 「ええ、もちろん!」 にっこり笑って頷くサナ。 リューイは思う。 『帰ってきて良かった』と。 「リューイ」 「・・・・?」 「おかえりなさい。」 サナは大きく両手を広げた。 精一杯の笑顔をのせて。 「・・・ただいまっ、サナッ・・・!!」 リューイはぎゅっとサナを抱きしめて、その髪に顔を埋めた。 汗の匂いと、草原の匂い。 それが無償に愛しくて、リューイはサナを抱きしめ続けた。 Three days, three evenings, and fire burn. (みっかとみばん ひはもえて) For having come back, a man is three persons. (かえってきたのは おとこがさんにん) Seven days, seven evenings, and fire burn. (なのかとななばん ひはもえて) Behind, ashes do not remain, either. (あとにははいも のこらない) However, the evil spirit of a prairie has disappeared. (けれど そうげんのあくまはきえてしまった) The ground of a prairie revived at last. (やっと そうげんのちはいきかえった) -------------------END |