まぼろしをそのに握り。

















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これより先に綴られる文は、ある旅人の手記の一部である。
その旅人はある盗賊団と出会い、その盗賊団が偉業を成し遂げるまでをその目に焼き付けてきた。

それでは、その旅人が記した手記よりその盗賊団を考察してみよう。


誰よりも自由で、
誰よりも気高く、
誰よりもこの地を愛した人々を。

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『手記をつけ始めてから、つまり、私がこの盗賊団に世話になりはじめてから、既に三ヶ月が過ぎた。

所で、今私のまわりは大いに騒がしい。
何故なら、"祭りの決行"が決定されたからだ。
そこかしこで、ばたばた走り回る男達が見える。

そんな中、私は手記をつけているのだが。
時折恨めしそうにこちらを見る者もいるが、ポーカーフェイスを決め込んだ。


祭りというのは、一般的にいうものではない。
ここでは、ハルモニアに一泡吹かせる事を、大体"祭り"と呼ぶ。
実際、彼らは実に楽しそうなのだ。
私が来たときは少なかったこの盗賊団も、既に50人近くに膨れ上がっている。
これも"彼"の人望あっての事なのだろう。


そういえば、この盗賊団には幹事らしき人物が二人いる。
一人は、水の色を纏った巨漢、名をワイアットというらしい。
その外見に似合わない、水魔法を得意とする剣士だ。
彼はエンの後始末係といった感じで、苦労しているように見受けられる。

もう一人は、黒衣の・・まるでライオンを連想させるような姿也をした、ゲドという剣士。
彼もまた、エンとぶつかり合っている所をしばし見かける。
雷魔法の使い手で、性格は非常に無口だ。


とにかく、彼らはエンにとって無くてはならない存在らしい。

どうやらまた長くなってしまったようだ。
今日はここまでにしよう。』















まぼろしをそのに握り。














「よおっし!!じゃあそれで異論はないな!?」



「ああ、構わないよ。」
「あたしはハナから賛成だよっ!」
「おう、派手に行こうや!!」
「昔から変わってないねえ、あんた。」
「お頭が強引なのは昔からです、村長。」
「はっはっは!貴方には頭があがりませんな!」
「俺は元から賛成しているからな・・・。」










エンの解散の一言で散り散りに帰っていく仲間達。
となりでは、呆れ顔のワイアット。



「お前・・・。相変わらず強引な。」

「いいだろ、皆ちゃんと納得してくれたんだから。」

「ま、いいけどな・・・。」

「じゃあ準備急がねぇと。ワイアット、早く行こう。」

「へえへえ。今行きますよ。」







祭り決行は一週間後。
運び手一行は大いに盛り上がっていた。














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『----追記

さて。
ここからは余談となる。

私はビュッデヒュッケ城の裏庭に来ていた。
するとそこに、硬いものがぶつかりあう音が聞こえてきたのだ。
何かと思って覗いてみると、エモノをあわせているのはエンとゲドだったのだ。

珍しいと思い、私は物見を決め込む事にした。』

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「とりゃっ!!!」


深紅の棍を、力いっぱい叩きつける。
しかし、黒衣の剣士はそれをあっさりとはじき返す。

身軽に攻撃を仕掛けるエンとは変わって、ゲドはただエンの攻撃を防ぎ続けていた。


「ゲド!!じっとしてないでかかって来い!!」


再び一打。二打。


「そんな事を言うのなら当てて見せろ。」

「言われなくてもっ!!」


鮮やかな赤が湖面に映る。
静かな湖畔に、棍と剣がぶつかり合う音だけが響いていた。



「っのぉ!!!」

「・・・!!!」


どうやらいよいよラストスパートらしい。
火花を散らそうかという程激しいぶつかり合い。







鳥が一声啼いた。







それが終わりの合図だった。














綺麗な弧を描いて飛んでいく棍。





勝ったのはゲドだった。














「くっそ・・・。また負けちまった。」

「お前もしつこいな。」

「うっせ。あーー、手が痺れてやがる・・。」



尻餅をついたまま手をぶらぶらとさせる。
ゲドはそれを普段見せないような表情で眺めていた。




ふと、ゲドが思いついたような顔をする。










「エン。お前は剣を持とうとは思わんのか。」

「はぁ?剣?」

「ああ。お前の腕なら使いこなせるだろう?それに、棍だと殺傷率が低くなる。」

「急所当てちまえば一発だって。それにさ、俺剣って性にあわないし。」

「そうなのか。」

「ああ。悪いけどなっ、と。」



反動をつけて立ち上がると、棍が飛ばされた方向へ走っていく。
拾い上げると、器用にそれをクルクルと手の中で回す。

それは戦士というより、どこかの大道芸のようだった。




「剣だと血がいっぱい出て鬱になるってのもあるよなあ。
俺血の匂い嫌いだし。」

「・・・・そうか。」

「別にお前やワイアットを悪く言ってるわけじゃないさ。
俺達は、心に共通の刃を持ってる。
それを具現するエモノがそれぞれ違うだけだ。」




エンは棍を空高く放り投げた。





「なあゲド。
俺達の持つ刃は、決して折れたりなんかはしない。

俺達が、諦めない限りな。」


「・・・・・。」


「これからもよろしく頼むよ。」










パシッと、落ちてきた棍を掴む。









ゲドがそれに気をとられた隙に、エンは踵を返していた。























「さあ、お前らっ!!!祭りに行くぞぉ!!!」

「おおおおおおおおおーーーーー!!!」














さあ、大きな祭りが始まる。














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『------更に追記。

今日の彼らの会話は、不思議なものだと思った。
正直、私には理解できなかった。

エンとゲドとワイアット。
だが、彼らの内にある見えない糸を私は感じている。』