------------------- これより先に綴られる文は、ある旅人の手記の一部である。 その旅人はある盗賊団と出会い、その盗賊団が偉業を成し遂げるまでをその目に焼き付けてきた。 それでは、その旅人が記した手記よりその盗賊団を考察してみよう。 誰よりも自由で、 誰よりも気高く、 誰よりもこの地を愛した人々を。 -------------------- +++++++++ 『手記をつけ始めてから、つまり、私がこの盗賊団に世話になりはじめてから、既に三ヶ月が過ぎた。 所で、今私のまわりは大いに騒がしい。 何故なら、"祭りの決行"が決定されたからだ。 そこかしこで、ばたばた走り回る男達が見える。 そんな中、私は手記をつけているのだが。 時折恨めしそうにこちらを見る者もいるが、ポーカーフェイスを決め込んだ。 祭りというのは、一般的にいうものではない。 ここでは、ハルモニアに一泡吹かせる事を、大体"祭り"と呼ぶ。 実際、彼らは実に楽しそうなのだ。 私が来たときは少なかったこの盗賊団も、既に50人近くに膨れ上がっている。 これも"彼"の人望あっての事なのだろう。 そういえば、この盗賊団には幹事らしき人物が二人いる。 一人は、水の色を纏った巨漢、名をワイアットというらしい。 その外見に似合わない、水魔法を得意とする剣士だ。 彼はエンの後始末係といった感じで、苦労しているように見受けられる。 もう一人は、黒衣の・・まるでライオンを連想させるような姿也をした、ゲドという剣士。 彼もまた、エンとぶつかり合っている所をしばし見かける。 雷魔法の使い手で、性格は非常に無口だ。 とにかく、彼らはエンにとって無くてはならない存在らしい。 どうやらまた長くなってしまったようだ。 今日はここまでにしよう。』 まぼろしの刃をその手に握り。 「よおっし!!じゃあそれで異論はないな!?」 「ああ、構わないよ。」 「あたしはハナから賛成だよっ!」 「おう、派手に行こうや!!」 「昔から変わってないねえ、あんた。」 「お頭が強引なのは昔からです、村長。」 「はっはっは!貴方には頭があがりませんな!」 「俺は元から賛成しているからな・・・。」 エンの解散の一言で散り散りに帰っていく仲間達。 となりでは、呆れ顔のワイアット。 「お前・・・。相変わらず強引な。」 「いいだろ、皆ちゃんと納得してくれたんだから。」 「ま、いいけどな・・・。」 「じゃあ準備急がねぇと。ワイアット、早く行こう。」 「へえへえ。今行きますよ。」 祭り決行は一週間後。 運び手一行は大いに盛り上がっていた。 ------------------- 『----追記 さて。 ここからは余談となる。 私はビュッデヒュッケ城の裏庭に来ていた。 するとそこに、硬いものがぶつかりあう音が聞こえてきたのだ。 何かと思って覗いてみると、エモノをあわせているのはエンとゲドだったのだ。 珍しいと思い、私は物見を決め込む事にした。』 ------------------- 「とりゃっ!!!」 深紅の棍を、力いっぱい叩きつける。 しかし、黒衣の剣士はそれをあっさりとはじき返す。 身軽に攻撃を仕掛けるエンとは変わって、ゲドはただエンの攻撃を防ぎ続けていた。 「ゲド!!じっとしてないでかかって来い!!」 再び一打。二打。 「そんな事を言うのなら当てて見せろ。」 「言われなくてもっ!!」 鮮やかな赤が湖面に映る。 静かな湖畔に、棍と剣がぶつかり合う音だけが響いていた。 「っのぉ!!!」 「・・・!!!」 どうやらいよいよラストスパートらしい。 火花を散らそうかという程激しいぶつかり合い。 鳥が一声啼いた。 それが終わりの合図だった。 綺麗な弧を描いて飛んでいく棍。 勝ったのはゲドだった。 「くっそ・・・。また負けちまった。」 「お前もしつこいな。」 「うっせ。あーー、手が痺れてやがる・・。」 尻餅をついたまま手をぶらぶらとさせる。 ゲドはそれを普段見せないような表情で眺めていた。 ふと、ゲドが思いついたような顔をする。 「エン。お前は剣を持とうとは思わんのか。」 「はぁ?剣?」 「ああ。お前の腕なら使いこなせるだろう?それに、棍だと殺傷率が低くなる。」 「急所当てちまえば一発だって。それにさ、俺剣って性にあわないし。」 「そうなのか。」 「ああ。悪いけどなっ、と。」 反動をつけて立ち上がると、棍が飛ばされた方向へ走っていく。 拾い上げると、器用にそれをクルクルと手の中で回す。 それは戦士というより、どこかの大道芸のようだった。 「剣だと血がいっぱい出て鬱になるってのもあるよなあ。 俺血の匂い嫌いだし。」 「・・・・そうか。」 「別にお前やワイアットを悪く言ってるわけじゃないさ。 俺達は、心に共通の刃を持ってる。 それを具現するエモノがそれぞれ違うだけだ。」 エンは棍を空高く放り投げた。 「なあゲド。 俺達の持つ刃は、決して折れたりなんかはしない。 俺達が、諦めない限りな。」 「・・・・・。」 「これからもよろしく頼むよ。」 パシッと、落ちてきた棍を掴む。 ゲドがそれに気をとられた隙に、エンは踵を返していた。 「さあ、お前らっ!!!祭りに行くぞぉ!!!」 「おおおおおおおおおーーーーー!!!」 さあ、大きな祭りが始まる。 ---------- 『------更に追記。 今日の彼らの会話は、不思議なものだと思った。 正直、私には理解できなかった。 エンとゲドとワイアット。 だが、彼らの内にある見えない糸を私は感じている。』 |