まぼろしをそのに握り。










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これより先に綴られる文は、ある旅人の手記の一部である。
その旅人はある盗賊団と出会い、その盗賊団が偉業を成し遂げるまでをその目に焼き付けてきた。

それでは、その旅人が記した手記よりその盗賊団を考察してみよう。


誰よりも自由で、
誰よりも気高く、
誰よりもこの地を愛した人々を。

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『旅をする間に、手記をつけようと思う。
今までそのような事はしなかったが、とりあえず三日坊主にはならない事を祈る。





今日も戦火の中の草原は良く晴れていた。
私がこの盗賊団に世話になってから、もう一週間はたつ。
ほんの十数人程度の小さな盗賊団だ。

私は一週間前に、この盗賊団に襲われた。
理由は服装がハルモニアのものに見えたからだそうだ。
誤解をといた私は、盗賊団に招かれた。目的はどうやら私の持つ"知識"らしい。
私はこの世界の歴史から、どうでも良い下らない事まで、色々な事を彼らに聞かせた。
彼らは私の話に興味深そうに耳を傾けていた。

彼らはこのグラスランドをハルモニアに奪われるのが悔しくてたまらないらしい。
あの大国に楯突く者がいようとは。
世界は広い。

私とて馬鹿ではないが・・・彼らの、特に頭の者に何故か惹かれたのだ。
私より10は下だろうか。
精悍な顔つきに、鋭い眼差し。燃える様な出で立ち。


見たことのない種類の人間と言おうか。
とにかく、私は彼に惹かれたのだ。

名前は"エン"と言うそうだ。


長くなってしまったので、今日はここまでにしよう。
私のこの手記が、いつか後世に役立つ事を祈る。』












まぼろしをそのに握り。














「お頭、これは何処に置いたらいいんすか?」

「倉庫の中突っ込んどけ!」

「お頭ーー!偵察の奴ら帰ってきましたー!!」

「ああ、今行く!!」





盗賊団、"炎の運び手"のリーダー、エンは今ひじょうに多忙だった。
普段からそうではない。
近く、大きな"祭り"があるのだ。

ハルモニアを交えた、大きな大きな祭りだ。
大きな祭りには準備が欠かせない。

そういうワケでエンは今多忙なのである。




「ワイアット、偵察の奴らが帰って来た。最期の方針を決めるぞ。」

「おお、早かったな。わかった、今行く。」


側で作業を続けていたワイアットを呼び、ビュッデヒュッケの中庭を早足で走り抜ける。
枝に止まった小鳥が、慌ただしさとは無関係のように一声啼いた。

食堂を切り盛りしてきれているステリアに声をかけて、扉からビュッデヒュッケ城へ。
そのまま目の前の重々しいドアを開くと、そこには偵察へ行っていた二人の仲間とゲドがいた。


「ゲド、来てたのか。」

「ああ。それより少しマズイ事になったぞ。」

「・・・・・何だと?」

「まずは話を聞け。」







――――偵察に行った二人の話によると。

今回の祭りの標的、つまりハルモニアの商隊に、ハルモニア辺境軍がついたという話だ。
最近急増するハルモニア商隊を狙う盗賊団、つまり"炎の運び手"の動きを懸念したからである。




「ふん・・・。それで?数は如何ほどだ?」

「一個小隊ですから、多くても15程度でしょう。服装からして殆んどが普通の一等・二等兵かと。神官クラスはいないでしょうね。」

「そうか・・・。しかし少しキツイんじゃないのか?エン。いくら数が増えたとは言え、まだ俺達は50行くか行かないか程度の数だ。
向こうさんは商隊を合わせりゃ40弱にはなるだろうよ。
それに、ここを空ける訳にもいかない。今回は諦めるか?」

「・・・・そうだな。俺としては祭りは派手な方がいいんだが。

・・・よし、ステリア姐さんとロマナとあのアホ親父と」

「ノーマさんとトリルとピートだろ?呼んでくる。」

「おう、頼むわワイアット。ついでにセフィから来た剣士も頼む。
あとゲド、お前は俺の代わりに準備の指揮頼まれてくれねーか?無駄になるかもしれねーけどさ。」

「わかった。早めに話をつけてくれ。」

「わかってるって。」











集まったのは、

食堂を切り盛りする女性、ステリア。
盗みはエンにもひけをとらない、女盗賊ロマナ。
エンの盗みの師匠、エン曰く"アホ親父"のルーゴ。
チシャの時の女村長、ノーマ。そしてその息子、トリル。
ダッククランから来た、自称"勇敢な戦士"、ピート。
そしてセフィから来た寡黙な剣士。名は未だに明かしてくれそうにない。



と、濃いメンツが集まった。


エンは一通りの説明をし、それぞれを見回す。
難しい会議を始める気などはサラサラない。
そんな事になったらばワイアットに任せるつもりだ。





「率直に言おう。意見は簡潔に頼むぞ。この祭り賛成か否か、答えてくれ。」









「少し同意しかねるね・・・。」
「楽しそうじゃん。賛成。」
「俺は賛成だ。祭りは派手な方がいい。」
「勝てる算段があるのなら、賛成するよ。」
「反対ですよ、お頭。危険です。」
「勇敢と無謀とはまったくの別物だ。同意しかねる。」
「・・・・・俺は賛成だ。今の戦力ならば問題ない。」









多種多様の返事。
まあそのように人選したのだから当たり前だ。

エンは一呼吸置いて、椅子にどっかりと腰を下ろした。



「よし。なら皆の意見を詳しく聞こう。明日の朝までには決めるぞ。」

「無茶言う奴だな。どうせ殆んど俺に任せるつもりだろう。」

「最終的には纏めてやるよ。いつもみたいにな。」

「・・・・期待するぞ。」














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『――追記。

そのリーダーのエンはひじょうにカリスマ的存在である事を、私は後日知った。
素晴らしい気質を持った彼だが、彼の真意は何故かいまいちつかめない。



まるでまぼろしのようだ。』



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