洗濯日和


















「今日はとってもいい天気ね?」

「あーーー。」

「洗濯物が、よく乾くでしょうね。」

「おーーー。」



ビュッデヒュッケの中庭。
湖のほとりで、なかよく日向ぼっこ中の英雄夫妻。
太陽も、もうすぐ昇りきる時間。

ぽかぽかとした陽気に包まれて、今にも眠ってしまいそうだ。
実際、エンはサナの言葉にもうわの空だ。



一方のサナは何かを企んだような目で、じっと湖面を見つめている。
しばらく、そんな時間が穏やかに過ぎて。
サナはすっくと立ち上がった。









「エン、起きなさい。」

「・・・・・・やだ。」

「起きないと蹴るわよ。」

「蹴ってみやがれーー・・・」

「わかったわ。」







ドカッ。

バシャン。







サナは容赦なくエンを蹴飛ばした。
蹴飛ばした先は悠々と大水をたたえる、ビュッデヒュッケの湖。



「・・・・ぶはっ・・、サ、サナァ!!!!」

「何よ。蹴ってみやがれって言ったじゃない。」




湖に浮かびながら憤慨するエン。
サナはそんなエンを見下ろしながら冷たく言い放った。

・・毒づきながらも手を差し出す辺り、サナにも愛情があると思いたい。



「丁度いいわ。エン、洗濯をしましょう。大洗濯よ。」

「・・・・はあ?」

「こんなに素敵な洗濯日和、そうそうあるものじゃないわ。」

「・・・こんな日ぐらいぼけーっとしてようぜ、サナ・・・」

「駄目よ!!さあ、皆を集めてきて頂戴!」






もう何を言っても無駄だ。
・・サナの目は、燃えていた。























「・・・・・・・・・で?」

「何故俺たちまで・・・。」



あくびをしながら不機嫌そうに呟く、幹部二人。
彼らも例に漏れず、この陽気に誘われて眠っていたクチらしい。

そんな二人に喝を入れるのは、サナだ。


「いいじゃない、せっかくなんだから有意義に過ごしましょう。
今日という日は二度と来ないのよ?」

「サナ・・・なんか台詞がくさくないか?」


「うるさいわね。あなた達がいつまでもボケッとしてるからでしょう!!」





あくびを噛み殺すエンの頭をはたいて、サナは集まった運び手の仲間達へ大声で言い放った。








「今から洗濯をするわよ!!自分達の部屋にある汚れ物、ぜーーーんぶ!持ってきなさい!!」











他でもない、英雄の妻ともなろう女からの申し出だ。
・・・・聞かないわけにはいかない。

一斉に自分の部屋へ向かう男達。
女達はたらいやら何やらを持って慌ただしそうに走り回っている。



サナは満足そうに微笑んで、自分も洗濯をする為に湖へと走っていった。














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「そこ、もっとちゃんとしなさい!」

「・・・・俺、もう手ェ疲れたんだけど・・・。」

「駄目よ。あとノルマ5枚もあるんだから。」

「げぇっ!」



そんなわけで、その日は文字通り大洗濯となった。
男達も女達に混じってひたすらシーツやら服やらを洗っている。

城総出の大洗濯だ。





「あー、意外に肩こるな、洗濯って。」

「ああ。」

「俺等年寄りにはちっと辛いぜ。」

「まったくだ。」









文句を言いながらもちゃんと洗っているのは、彼らが真面目な性格だからだろうか・・。
太陽がてっぺんに昇って、それから少し傾いた頃。

ビュッデヒュッケの庭という庭に、白いカーテンが翻った。






「これは中々・・・。」

「気持ちいいもんなんだなぁ・・。」

「でしょう?」





にこりとサナが微笑む。
バタバタと風に煽られて揺れるシーツは真っ白で、見ているだけで気持ちいい。

なんとも言えない充実感だ。



ずぶ濡れになったエンの服も、今は風に揺られてたなびいている。
洗濯を終えた女達や男達は、気持ちよさそうに庭に寝転がっていた。

恋人同士で他愛ない話を笑いあっている者もいる。



なんとも、平和である。














「ああ、ほんといい天気だ。」

「ええ、洗濯日和ね。」













相変わらず、陽気は穏やかに日差しを運んでくる。
今日はとても素敵な、洗濯日和。