「貴方はいつだってそう。 また私を置いていってしまうのね。」 「ごめん。」 「謝らないでよ。謝るくらいなら、生きてよ。」 「・・・ごめんな。」 「何よ・・・何よ・・・。死ぬ間際までそうなの・・!? 我が儘で、自分勝手で!!」 「サナ、幸せになってくれ。」 「ふざけないでよっっ・・・!!」 「俺の事を想って泣いたりしないでくれ。俺の為に泣いたりしないでくれ。 お前にはいつも、笑ってて欲しい」 あの人はそう言って、笑いながら死んでいった。 だから私は決めたの。 『私は、泣かない。』 ----------------------------- 「ゲド・・・久しぶりね。」 「・・・ああ。」 「何?人の顔をジロジロ見ないで頂戴。」 「・・・すまん。」 ゲドが、チシャに来た。 突然の来訪だった。 「変わっていないな、この村も。」 「ええ。私が守ってきたんですから。」 「・・・そうだな。」 穏やかに微笑むサナを見やる。 "老いた"と。 そう思った。 ただ、その瞳に潜む輝きは失われず、未だ精彩を放っている。 栗色だった艶やかな髪は褪せようとも、 勝ち気そうな笑顔を、屈託なく振りまいていた横顔が消えようとも、 彼女は"少女"だった。 時に英雄を嗜め、支え、ともに歩んできた少女。 あの鮮烈な輝きは、今でもゲドの中に焼きついている。 彼女は、幸せになれたのだろうか。 「・・・今日は、あの人の命日なの。」 「・・・・そうか。」 「分かっていて来たんでしょう?寄って行って。」 「いいのか?」 「いいに決まってるじゃない。」 風が通り抜けた。 「幸せだったか。」 「え?」 「あいつが死んで、50年。お前は幸せだったか?」 「・・・・・。相変わらずデリカシーがないのね。」 「・・・・すまん。」 「いいわよ。・・・ええ、幸せだったわ。あの人の思い出と一緒に、私は生きてきたもの。」 あの人は"自分を想うな"と言ったわ。 だから私はあの人の"思い出"と一緒に生きてきた。 あの人は私に"泣くな"とも言ったわ。 だから私は、あの日から一滴の涙も零さなかった。 あんな我が儘な人の為に、泣いてなんかやるもんかと思ったもの。 「でも・・・でもね、ゲド。」 でもね。 「私、あの人の顔が思い出せないのよ。」 笑ってる顔。 泣いてる顔。 拗ねてる顔。 怒ってる顔。 みんな、遠くで霞んでる。 忘れてしまうなんて、思いもしなかった。 「忘れたわけじゃないの。でも、思い出せないのよ。 ・・・・こんなに怖い事は無いわ・・・!!」 「サナ。」 「こんな日が来るなんて、思っても見なかった。」 「それが・・・」 「・・・"老いる"という事なのね・・・・。」 「・・・そうだ。」 サナは空を見上げた。 50年前と変わらずあるそれが、彼女の心を慰めてくれた。 "老いる"という事。 今日ほど間近に感じた事は無かった・・・。 となりに立つゲドを見ながら、サナは思った。 |