「・・テッド。君はどうして自分の武器、弓にした?」
「ん?」

普段、あまり自分から話しかけようとしないヤタがそうたずねてきた。
一体何事かとヤタを覗き込めば、そこには純粋な好奇心しかないわけで。
テッドは彼が”子供”なのを思い出した。

何せ思考がジジくさいというか、堅物というか。
最近やっと、テッドの前だけではそれ相応の口調にしようと努めているようだけれど・・・

どうにかならないものか、これは。
テッドからしてみれば、子供の特権をことごとく無駄にしてるように見えるのだ。
不本意ながらも自分はそれにあやかっている身だから、余計に。



・・・・と。
話がずれた。
ヤタはじっとおとなしくテッドが答えるのを待っている。
せっつくとか何とかしたらいいのに。

そう思いながらもテッドは身振り手振りを交えて説明し始める。






「俺はさ、戦うとか、そんなのは苦手なんだよ。
 出来ればそーゆうのはしたくないんだ。」

「・・あ・・・うん。」


ヤタが少し口ごもりながら、答える。
無理に口調を変えているせいだ。
いつもならぶっきらぼうに、”ああ。”とか答えるはずなのだから。



「弓矢の使い方はさ、俺が旅に出て、初めて教えてもらった戦い方なんだよ。
 そうだなー。テオ様にちょっと似てたかな?
 そんな男の人に教えてもらったんだよ。」

「父上に、似ていたのか?」

「ああ。・・つってもあんま覚えてないんだけどな。
 とにかく、俺は弓を選んだんじゃなくてだなーーー。まああれだ。
 これしか選べなかったんだよ。
 ・・こんなほそっこい腕で剣振り回したって、たかが痴れてるだろ?」


けらけらと笑うテッド。
ヤタは少しムッとする。


「・・・君のそれは、僕の棍がたかが痴れてるって言ってるのと同じだと思うのだけど。
 ・・僕は君よりまだ小さいからね。」




テッドは少し焦ったように視線を彷徨わせたけど、”お前はこれからでっかくなるだろ?”
なんて言って、またけらけらと笑った。

ヤタはじっとテッドをねめつける。




***

この間、彼と狩に出かけた。
父上も良い経験になるだろうとお許しをくれたから、柄にもなく僕ははしゃいでいたのだと思う。
でも、実際に野原や森に出てくる凶暴な動物達を相手に棍なんかで応戦するのは、余程の手練でないと危険なこともわかった。

テッドに何度助けてもらったか判らない。
何度アドバイスを貰ったか。


彼が僕をお坊ちゃん呼ばわりしても、反論など出来ないわけだ。


彼の弓の腕は素晴らしいものだった。
確実に急所を狙うその目は、どこか空から獲物を狙う鳥にも見えた。
僕が前線に出過ぎても、彼がその弓で牽制してくれたり・・・。



外見から彼の年齢を考えると、余程の才能があるのだとしか思えなかった。
だから気になった。
どうして、弓を使っているのか。

旅人は確かに弓を使うことが多いが、それはサブ。
予備としてだ。
ほとんどは剣など近接武器を使う。

弓をメインにしているのは珍しいと、そう父上に聞いた。





こんなにへらへらしていても、やはり彼は違うのだ。
僕とは違う、同じような年月でも重みの違う時間を過ごしてきたのだ。

何故だろうか。
・・少し、悔しい。







***




テッドは自分のもう一つの相棒、少し古ぼけた弓に目をおとす。
自分でも思い出せないような、ほころびだらけの記憶。

大切な弓を譲ってくれたあの旅人の男は何と言っていただろうか。














『大切にするんだぞ。いいか、コレはお前の相棒だと思え。』

『相棒?』

『ああそうだ。名前でもつけてやるといい。』

『・・・わかった。』














あの弓はもう毀れてしまった。
今の弓は一体何丁目だろうか。







「・・どうした?テッド。」

「ん?いや、何でもない。」

「・・・変な奴だな。」














この弓は何という名前だったか。
300年のうちに、弓に名前をつけることなど忘れていた。
一番初めに教わった、大事なこと。







今度ヤタと一緒に、こいつの名前を考えようか。
俺のかけがえのない、もう一つの相棒。