「坂本、銀時を知らないか。」 「金時?・・・知らんなあ。」 「そうか・・・まったくあいつはいつもいつもフラフラ・・・」 「何ちや、ヅラ。あいつに何か用事でもあるかや?」 「次の戦の打ち合わせだ。 坂本、お前も来て貰うぞ。」 「わしは銀時さなぐしてくるぜよ!ほんならな!」 「・・・・・・・」 坂本はあっという間にみじんこみたく小さくなった。 カランコロンと下駄がなる音だけが、坂本が逃げていくのを教えてくれている。 桂は思わず額を押さえた。 ・・・俺は将来ストレスとやらで禿げるのだろうか。 否定してくれる者は今現在何処にもいないようだった。 -------------- 「おぉい、金時ーー。ここにおるんやぉー?」 攘夷志士達は、もっぱらこの町外れの寺に集まる事が多かった。 桂の本邸は四六時中天人どもに見張られているし、だからといって他に集える場所が町にはないからだ。 草は伸び放題、屋根は所々抜けていてボロボロだけれど、それでも広さだけは充分なものだった。 銀時は、高いところが好きだ。 こんなおんぼろ屋根でも銀時はヒョイヒョイ上っていって、そのままぐーすか寝てしまう。 高いところは銀時のお気に入りだ。 坂本がそれに気付いたのは結構最近の事だけど、坂本は誰にも言わなかった。 言ってしまったら、きっと桂は絶対に銀時をここに来させようとしないだろう。 何より。 坂本は銀時に嫌われるのが嫌だったからだ。 「銀時ーーー?」 坂本は腐りかけた壁に足をかけて上っていって、屋根を覗いてみた。 どうやら銀時は、自分の刀を磨いていたようだ。 「・・・あ?・・んだ、辰馬か。」 「おぉ。刀、磨いてるようじゃな。」 「まーな。昨日は斬りすぎた。」 「・・・おんし、まぁた一人で勝手に行ったがや?」 「いーだろ。迷惑かけてねーんだから。」 「迷惑はかけてのうても心配はかけとるろぅ。 わしもヅラも・・・まあ一応高杉もかろぅ。心配しよったぞ。」 そんな坂本の言葉に銀時は一瞬視線を彷徨わせたが、すぐに手元に視線をおとした。 銀時は猫のようだと坂本は思う。 高いところが好きだし、よく寝るし。 放っておいたらすぐにどこかに行ってしまう。 と思ったら、次の日には戻ってきていたり。 仲間想いの奴だけれど、群れに入りたがらないようにも見える。 それは志士達がどこかで銀時を恐れているからかもしれないし、 銀時が戦以外は食うか寝るかどちらかしかしていないからかもしれない。 「なあ、銀時。はやちっくと、わしらぁ頼ってみる気はないがか?」 「・・俺は充分お前らに頼らせてもらってるさぁ。」 「嘘つくがやない。おんしはいっつも、我ひとりでなんちゃー済ませようとしとる。 昨晩一人で出てったがもそうじゃ。 ほれとも、おんし一人であの化物軍団に勝てると思っちゅうか?おんしはそこまで馬鹿がやないじゃろ?」 「・・・・・・・。」 「何らぁ答えてみぃ、銀時。」 銀時の手元は、いつのまにか止まっていた。 「・・・・辰馬だって、そうだろうがよ。」 「わしは別に・・・」 「嘘つきやがれ!こないだだって一人で天人と交渉したって言うじゃねーか。 ヅラから聞いたぞ!」 「・・・ほりゃあ、わし一人で行った方が楽やと思ったからぜよ。」 「どっちにしろ同じだろ!」 銀時は不満げに坂本をねめつけてくる。 困った。 そう返されると、さすがに坂本も困る。 確かに坂本は交渉のたぐいは得意なのだが、だからと言ってたった一人で行く道理はない。 2・3人でもいいから連れて行けという桂の言葉を断ったのは、ただの自己満足だ。 銀時と同じなのだ。 お互いに睨みあっていたら、下からとんでもない大声が飛んできた。 「てめぇらぁぁ!やかましーんだよ!んなトコでいちゃこらしやがってよぉ!」 ・・・高杉だ。 どうやら寺の中で寝ていたらしい。 ものすごく不機嫌だ。 「いいか!てめぇらそこを動くなよ!・・・俺が今からぶった斬ってやるからよぉ・・。」 「げっ!銀時、高杉ばキれてしまっちゅうぞ!!」 「・・・マジかよ。俺の大切な睡眠が・・。」 「とにかく、はよぅ逃げるぞ!」 高杉がスラリと刀を抜くのが眼下に見えた。 『こんなんだから頼れねーんだよ・・。』 溜息をついた銀時の顔は、けれど少し微笑んでいた。 |