【くれないしんげつ】















「桂さん・・。・・高杉さん達、遅いですね。」

「・・ああ。」

「何事も、なければいいのですけど。」

「・・そうだな・・。」



















ちらちらと松明が踊る。
暗闇に、静けさが戻った。



















「・・・重い。だりィ。勘太、かわれ。」

「えっ、ええ!?さっき交代したばっかり・・!」

「・・高杉、お前が嫌なら、俺一人で背負う。」

「・・・・・わぁったよ。」





行きはよいよい帰りは怖い。
勘太はこっそりそんな歌を頭に浮かべていた。



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こんな必死な坂田さんは初めて見たかもしれません。
俺は戦場の坂田さんを一度も見た事がなかったから、今日は本当に驚いた。
本当に同じ人なんだろうかって。

目がギラギラして、凄い形相で。

刀が風を切る音と、地面を踏みしめるジャリジャリした音だけを響かせて、
雄叫びもあげないで、無言で刀を振り回してた。

天人を全部倒しきった後、坂田さんをもう一度見てみたら・・
積みあがった死骸を見下ろすその目もまた、全然違う人みたいで・・・。
思わず俺は目を逸らしてしまったんです。





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「こんなデカい男、テメェ一人で担げるわけねェだろうが。
コイツは俺らが運ぶ。お前も背負って貰え。トロイんだよ。」

「・・・・・俺は平気だっつの。」

「つべこべ言うんじゃねぇよ。おい悟郎!そいつ担げ!
行くぞ!!!」

「ぅ・・わっ!?お、お前下ろせって!!」

「すんませんね、高杉さんの命令なんで。」



「ぐっ・・あ、あかん・・はや、わし、死んでまぅ・・・ぁいだだだ!!
高杉ィ!もった静かに歩けんがか!!!」

「んなけ無駄口叩けりゃ上等だ。おい与一!お前ひとっ走り行ってヅラに報告して来い!!」

「おぉ、任せてくだせぇ!」












与一と呼ばれた男が砂を巻き上げながら走っていった後。
一同は誰ともなく口を噤んだ。

慌ただしい雰囲気が一気に静まり、さらさらと川の流れる音だけが響く。
時折坂本が呻き声を上げる以外は、平素と変わらぬ帰り道のようだった。
郊外に差し掛かり、高杉のすぐ隣を歩いていた男が灯りを燈した。
ぼぅと光る灯りに、虫が寄ってくる。

横目でそれを鬱陶しそうに睨み付けながら、高杉は坂本を抱えなおした。
ちなみに勘太が上半身を、高杉が足を抱えているという少し情けない格好だったりする。







「あぁーー・・・アカン。血が足らん・・」

「ケッ。自業自得だぜ。」

「・・銀時ィ、世話をかけてしはやたなあ・・しょうまっことスマンかった。」

「・・・・・・・。」

「・・・銀時ィ?」








「・・・・寝てますよ、坂田さん。」







「「はぁ!?」」










思わず高杉も坂本も、ぐりっと首を後ろへまわした。
言わずもがな、坂本は腹に走った痛みにもんどりうっていたが。

高杉は前を歩いていたので、すこし歩調を弱めて悟朗にあわせてみた。
首を横にひねる。




・・・アホ面で寝こける男が、そこにいた。










「・・・・悟朗よォ。そいつ振り落としちまえ。」

「・・そ、それは・・ちょっと。」

「ったく、いいご身分だぜ。まぁ・・・あんなけ斬りゃぁ疲れもするだろうなァ。」









明日はきっと街中大騒ぎだろう。
ざっと、50人はいたのだ。

天人と幕府の武士を合わせて。


改めて思う。












「・・・化けモンだよなァ、コイツ。」













坂本も、隊士も、誰も何も言わなかった。
高杉には小さな寝息が少し、乱れたように聞こえた。























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「まったく・・・!鉄砲を使えるお前が鉄砲で倒れるとはな。」

「ヅ・・ヅラ、ほがーに怒らきおせよ・・」

「怒ってなどいない!それに俺はヅラじゃない!!桂だと何度言ったらわかるんだこのモジャモジャがァァ!」

「わぁぁ!桂さんがキれたぁっ!!!」










ようやく夜が明けて、やっと朝日が覗いたころ。
張り詰めていた緊張感がやっと溶けだした。

坂本はヘラヘラ笑いながら布団に転がっている。
その傍で桂は腕組みと正座を崩すことなく延々と説教をたれていた。
坂本に説教出来る者など、この一派では桂ぐらいだろう。








銀時は襖一枚隔てたとなりの部屋で、騒がしい声を聞いていた。

苦笑交じりに襖を見つめ、また天井をに視線を向ける。
今はなにもかもが億劫に感じてしまう。
頭のてっぺんから指先まで、酷い倦怠感に襲われていた。

酷使しすぎた腕や足の筋肉は悲鳴をあげていたし、
しみついた生臭い血のにおいは一層の倦怠感と不快感をもたらして来る。

昨晩背負った彼の重みと、天人達を斬った感触がこの体に染み付いている。




何故か、目頭がかぁっと熱くなった。
















「生きてんだよな・・・辰馬。」


















か細い声は、きっと彼には届いていない。
けれど襖の向こうから聞こえてくる坂本の笑い声は、ひどく銀時には優しくて。

熱くなった目頭を両の手の平でぎゅっと押さえて、銀時は声を殺して泣いた。










「・・・護れたんかなぁ・・俺・・・」


















答えは、この薄い隔たりの向こうだ。
















「・・・お前らの為なら、俺はいくらでも強くれるよ。」